熊本大学医学部の特色と強み

熊本大学医学部の特色と強み

熊本大学の医学部医学科は熊本県で唯一の医学部医学科であり、熊本県の医療の中心的な存在となっています。

PMD予備校熊本校から見ても、最寄りの医学部医学科ですので、入校を考えている人の中にも、志望している人やもっと情報が知りたい人も多いかと思います。そこで、今回から数回に分けて、熊本大学の医学部医学科の情報を発信していこうと思います。

第一回目は、熊本大学の医学部医学科の特徴と、他大学のと比較した際の強みについて紹介していきます。

 

旧帝大に次ぐ、歴史ある医学部医学科

熊本大学の医学部は明治29年(1896年)に「私立熊本医学校」として設立され、1922年に大学へと昇格した歴史のある大学です。日本の大学の医学部を設立の経緯で分類すれば、熊本大学は、旧制医大と呼ばれるグループ(熊本大学の他に、千葉大、新潟大、金沢大、岡山大、長崎大、京都府立医科大、慶應義塾大、東京慈恵会医科大、日本医科大の医学部医学科)で、大学への昇格で考えると、東京大学や京都大学といった旧帝大に次いで長い歴史を持っています。

歴史の始まりは1755年(江戸時代)に開設された”再春館”

私立熊本医学校のルーツをたどると、宝暦7年(1755年)に肥後熊本藩の藩主であった細川重賢によって設立された医学寮”再春館”までさかのぼります。

驚くべきは、初年度にして239人もの入学者がいたことです。この数字からも、再春館が大きな規模の学校だったことがうかがえます。以降、現在に至るまで、260年以上にわたり、熊本・九州の医療へ貢献し続けています。

もともと臨床医の養成を目的とした医学専門学校が大学へと昇格したこともあり、旧制医大は、当初は、臨床医の養成を重視していました。そのため、九州各県の大学に医学部が開設されるまでの間、熊本はもちろん、鹿児島や宮崎、大分などの九州各県に多くの医師を供給してきました。

九州各県に医学部が開設されてからは、臨床医の育成だけでなく、研究も盛んになりました。研究が盛んになったことで、それまでは九大などの旧帝大出身の教授が多かったのが、熊本大学出身の教授も多くなり、現在では他大学にも多くの教員を送り込んでいます。

著名な OB には、水俣病研究の第一人者の原田正純医師や、世界初のエイズの治療薬を発明した満屋裕明博士など、世界的に著名な医師・研究者もいます。

大学昇格以前のOBには新・千円札の北里柴三郎博士も

北里柴三郎
(出典:Wikimedia Commons

大学昇格以前のOBには新・千円札に肖像画が使われる予定の北里柴三郎博士もいます。

北里氏は、熊本大学医学部の前身、熊本医学校に入学し、当時教師だったマンスフェルト氏に感化され本格的に医学に目覚めていったといわれています。

卒業後は東京医学校(東大医学部の前身)へ進学します。その後、ドイツへ留学し、コッホ氏に師事して、破傷風菌抗毒素の発見や血清療法の開発など世界的な業績を残しました。

帰国後は私立伝染病研究所(現:東京大学医科学研究所)の初代所長を経て、私立北里研究所(北里大学の運営母体の前身)や慶應義塾大学の医学部を開設します。

研究者としての業績も偉大なものですが、現存する大学の医学部や研究施設の開設など、教育者としても大きな功績を残しています。

 

臨床医の養成と研究の両方がハイレベル

豊富な実習で最先端の知識と深い思いやりを持った臨床医を育成

これまで多くの臨床医を輩出してきた歴史のある熊大医学部ですが、その実績に満足せず、より優秀な臨床医を育てるシステム・環境の整備に向けて進化し続けています。近年では、最先端の知識と深い思いやりを持った臨床医を育成のために、他大学に比べて実習の多く取り入れたカリキュラムに変わりました。

多くの医学部は、2年次から医学の専門科目の講義が始まり、3年次もしくは4年次から臨床実習が組み込まれますが、熊本大学では1年次から専門科目の講義が始まり、実習も早期臨床体験実習として1年次より始まります。早い時期から実習は医療へのモチベーションの向上にもつながります。患者さんへの接し方や医師とスタッフとのチームワークのあり方を早くから考えることができます。

熊本大学の実習は量だけでなく、実習の質、内容も充実しています。先端医療を学べる学内での実習に加えて、学外での実習も多く、実際の医療の現場を実習を通して学ぶ機会も多くあります。特に、5、6年次には僻地の病院での実習もあり、地域医療の現状と重要性を知ることができます。

基礎医学の研究にも注力

熊本大学の医学部医学科では基礎医学の研究も盛んにおこなわれています。旧帝大に次いで伝統があることもあり、1990年代には、優秀な研究者が多く集まり、先進的な研究が数多く行われるようになりました。2000年以降は、医師不足や偏在の問題があり、全国的に臨床医の育成に力を入れる流れがあり、臨床と研究のバランスが取れている状態です。

付属の研究施設としては、発生医学研究所とエイズ学研究センターがあります。発生医学研究所は、分子遺伝学・分子生物学・細胞生物学など基盤に、生命科学と医学の総合的な研究を行っています。具体的には、IPS 細胞を用いた新薬の研究や再生医療の基盤となる腎臓などの複雑な臓器の発生のメカニズムの研究などが行われています。

エイズ学研究センターは、日本で唯一のエイズに特化した研究機関で、エイズの病態解析や新薬の開発などを行っています。エイズの分野は、世界初のエイズの治療薬の発明など、熊本大学が伝統的に強い分野です。ハーバード大学やオックスフォード大学など世界的な研究機関と共同で研究が進められています。


共同研究先の一つであるオックスフォード大学

(出典:Wikimedia Commons

第二の北里柴三郎を育てる!

現在日本では、医師となるためには医学部医学科卒業後に臨床研修が義務化されています。そのため、医学科卒業後に博士課程に入学する人は多くありません。博士課程に進学する場合、臨床研修と同時進行するか、臨床研修を先延ばしにするか、もしくは臨床研修後に進学するかしなければなりません。その結果、医学科卒業後に基礎医学の研究へ進む人が、臨床研修が必須となる前に比べて大きく減っています。

この状況を危惧して、基礎医学の研究者育成に取り組み始めた大学もあります。熊本大学もその一つで、柴三郎プログラムという独自のプログラムを整備して、研究者の育成に注力しています。柴三郎プログラムの名称は、熊本大学医学部の前身である熊本医学校で学ばれた北里柴三郎博士に由来しています。柴三郎先生のように世界で活躍する基礎医学研究医を育成したいとの強い気持ちをこめて命名されました。

地元の高校の科学部の指導から始まる

柴三郎プログラムは「柴三郎Jr.の発掘プログラム」という名称で高校生への指導から始まります。具体的には、地元の高校の科学部等に「発生・再生医学研究」、「癌などの病気の原因遺伝子探索研究」や「遺伝子改変マウスの作製や病気のモデル動物作製」などの最先端の研究を放課後や休日などに大学の研究室で直接指導を行います。また、研究に必要な費用を熊本大学が負担し、成果が出れば、国内外の学会等で発表等の援助もあります。

この柴三郎Jr.の発掘プログラムでは、基礎医学研究に早期に触れることで、研究に対して興味を持つ学生を増やすことが目的となっています。研究のすそのを広げるとともに、将来、基礎医学の研究に進む人材の発掘・育成を行っています。

学部在籍時に博士課程の授業が受講可能

大学入学後は「プレ柴三郎プログラム」が用意されています。熊本大学では3年次に基礎演習として、医学研究に取り組む機会がありますが、4年次も継続して研究を続けたい人は、このプログラムで医学部の研究室だけでなく発生医学研究所やエイズ学研究センターなどの各研究室に配属されて研究に取り組むことができます。

4年次から6年次の3年間をかけて、最先端の基礎医学研究を実践できるので、研究に必要な科学的思考能力、基本的研究手技を習得することができます。また、国内外の研究機関と共同研究実践するために必要な旅費、滞在費等への援助が受けられます。

また、先取履修という制度があり、博士課程の講義を受講して、大学院の単位を早期に履修することができます。修得した単位は、博士課程に進学したときに、単位として認定され、追加の授業料等は一切かかりません。

 

熊大病院で臨床研修をしながら博士課程を同時に進める

博士課程進学後は「プレ柴三郎プログラム」から「柴三郎プログラム」へと移行します。柴三郎プログラムでは、熊本大学医学部附属病院で卒後臨床研修を受けながら熊本学大学院医学教育部博士課程で研究に従事することができます。

卒後研修と博士課程が同時進行できるので、卒業後に基礎医学の研究者としてのキャリアへ進むことができるはもちろん、研修終了後を終えているので、医師として診療に携わることもできるようになります。さらに、条件を満たせば、通常4年間の医学博士課程を3年で卒業できる制度や女性の研究者のための子育て支援や、出産・育児休暇中のe-ラーニングによる単位の取得などがあります。

熊本大学医学部医学科の特色・強み
・再春館から続く歴史ある医学部
・実習が多いカリキュラムで臨床医の養成がハイレベル
・発生医学研究所やエイズ学研究センターなどがあり、基礎医学研究も盛ん
・柴三郎プログラムで若手研究者の発掘・育成に注力